インドネシアにおける税務調査の概要及びスケジュールを解説させて頂きます。基本的には弊事務所のような外部コンサル会社にご依頼されるケースが多いかと思います。しかし、会社ご担当社様ご自身もスケジュールの大枠を把握なさることで、より適切な対応が可能になりますため是非当記事をご活用いただけますと幸いでございます。
以下の様な人におすすめ!
・インドネシアに赴任されて間もない方
・還付申請を検討中の企業にお勤めの方
・税務調査中の企業にお勤めの方
✔️本記事の信頼性(筆者紹介)
- 田島 寛之 Hiroyuki Tajima
- 日本国公認会計士 Certified Public Accountant (公認会計士協会登録番号:37299)
- 国際税務コンサルティング経験豊富(2018年より2年間タイ、2020年より3年間インドネシア)
- インドネシア税務資格Brevet AB保有
- インドネシア現地コンサル会社複数社の顧問会計士を務める
- Universitas Lampungにて非常勤講師を務める
税務紛争関連手続の一般的なフロー(一連の流れ)
インドネシアにおける税務調査の一連の流れをまずは解説させて頂きます。大きく3段階にステップが設けられておりまして、まず税務調査が行われ、その後税務調査結果に納得がいかない場合は異議申立を行い、異議申立結果にも不服である場合は税務裁判に進むといった流れでございます。
Step1: 税務調査 Tax Audit(所要期間:約12ヶ月)
Step2: 異議申立 Tax Objection(所要期間:約12ヶ月)
Step3: 税務裁判 Tax Appeal(所要期間:約3-4年)
以下、当該記事にてStep1の税務調査に関する詳細を解説させて頂きます。
異議申立手続及び税務裁判に関する詳細はこちらの記事にて解説をさせていただいております。
税務調査が入るきっかけ
まずはどういった会社に税務調査が行われやすいか、この点を解説させて頂きます。下記に税務調査が行われる可能性のある主な事象を記載させて頂きました。
- 還付申請を行なった際
- 組織再編、会社清算を行なった際
- 赤字が続いている際
- 税務申告を遅延してしまった際
- 会計年度の変更を行なった際
- 機能通過の変更を行なった際
この中でも還付申請を行った場合はほぼ間違いなく税務調査が実施されます。一方、黒字が続いており毎期法人税の追加納税ポジションとなっている場合は税務調査はほとんど行われません。このことよりインドネシアにおけるもっとも有効な税務調査対策としては安定して利益を毎期計上するという事になります。
もう少し詳細にお話しますと、インドネシアにおいては源泉税でしたり予納だったりと法人税の前払を要求するケースが非常に多いです。そのため年間通して前払し過ぎて還付ポジションになってしまうケースが多いんですね。黒字と赤字を繰り返してしまうと黒字の年をベースに翌年予納が行われ翌年赤字となると還付ポジションとなってしまうといったイメージです。
その他、税務申告の遅れ、会計年度の変更、機能通貨の変更、組織再編等を行った際には税務調査が入りやすいといった状況になります。 ちなみに清算時にはほぼ100%税務調査が入ります。
税務調査フロー
それでは税務調査における一般的なフローを解説させて頂きます。ここでは還付申請を行う決断をした場合の税務調査を前提とさせて頂きます。
還付申請時の税務調査が最も頻度としては多く、一般的な税務調査となります。
① 年次税務申告書にて還付請求
↓ 3〜5ヶ月
② 税務調査通知書(SPPP)の受領 ※資料提出依頼及び面談実施の通知がなされる。
↓ 7日以内(最長1ヶ月)※資料提出が1ヶ月以内に完了しない場合、担当官は資料を確認せずに税務調整が可能。
③ 資料提出・会社代表が担当官との面談
↓ 3〜5ヶ月 ※担当官と公式・非公式なやり取り(質問及び回答)が発生。
④ 調査査定書(SPHP)の発行
↓ 反論する場合、SPHP受領後7営業日以内に反論が必要
⑤ 反論書を作成・提出
↓
⑥ 税務署との最終面談・税務調査終了
↓ 面談にて同意しない場合、異議申立、税務裁判へ進む
上記が税務調査におけるフローとなります。還付申請した後一旦待ちの状況が続きます。数か月後に税務調査通知書が発行されます。還付申請後3-5か月と期間に幅があり、またいつこの通知書を受領するかは規定されておりませんが大体このくらいの期間で受領する形となります。この通知書を受け取って7日以内に税務署より要求された資料を提出し面談を行う必要がございます。 この7日以内というのは1か月まで延長可能でございます。ただ1か月を超えてしまうと税務署担当官の裁量にて資料を確認せずに税務調整ができると税法上規定されております。そのため速やかに資料の提出が必要となります。税務署担当官との面談後は3-5か月間かけて税務署担当官が内容を精査致します。この期間、担当官とのやり取りが生じますが、ここでの回答だったり交渉が重要となってまいります。その後、精査が完了した段階で税務署担当官より調査査定書が発行され受領します。調査査定書の内容に不服がある場合は、調査査定書受領後7営業日以内に反論書を提出しなければなりません。
7営業日以内に反論書を提出しない場合、査定書の内容に同意したとみなされます。この調査査定書については税務署が無茶苦茶な主張をしてくるケースも多く反論書を提出するケースは多いです。反論書を提出した後、税務署との最終面談にて反論書への回答が通知され、この面談にて納税者が同意した場合は税務調査が終了します。最終的にSKPという税務査定書やSTPという税務追徴書といった税務署の最終判断を示した通知を発行して税務調査が完了するのですが、税務署側の義務として還付申請を受けてから1年以内にこの通知書を発行することが義務付けられております。そのため還付申請から税務調査終了までの期間としては1年以内となっております。
上記フロー①~⑥が1年以内という事ですね。
一方、税務調査の結果に納得がいかない場合3か月以内に異議申立をする事ができます。異議申立が却下された場合はPenaltyが課せられますため、このリスクとの兼ね合いで異議申立を行うかどうか決断する形となります。異議申立の審査結果にも同意しない場合は、異議申立の審査結果受領日から3か月以内に税務裁判所に控訴することができます。税務裁判で負けた際にもPenaltyが課せられます。
ちなみに税務裁判と聞くとほぼ勝ち目はないといった印象を受けるかと思います。日本であれば確かにそうなのですがインドネシアの場合この点事情が違いまして状況によっては勝算をもって税務裁判に臨めるケースもございます。そのため税務裁判を行うという選択肢は普通にあり、そこまで含めて弊事務所のようなコンサル会社に相談することをおすすめさせていただきます。感覚的には過去の経験上5割以上の勝率はあると感じております。
税務紛争プロセスの3段階目である税務裁判において勝率が5割を超えてくるということが示している様に、その前段階である税務調査、異議申立での税務署の主張の正当性には大きな疑義があると考えて取り組まれた方が良いかと考えます。税務署としてはチャレンジングな指摘を税務調査で行い、反論しなければそのまま追徴という流れです。税務調査調査査定書(SPHP)に対して税務署の指摘だからと鵜呑みにせず、反論するところはしっかりと反論することがインドネシアにおける税務調査対応としては重要となってまいります。
まとめ
本日は、税務調査について一連の流れを解説させて頂きました。インドネシアは税務調査の頻度が周辺国に比べて多いため、ぜひ駐在員の皆様にも概要を把握しておいて頂きたい論点となります。ご不明点等ございましたらお気軽に「お問い合わせフォーム」よりご連絡頂けますと幸いです。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。