海外子会社の利益を如何に日本本社に還流するか。海外進出企業グループにとって非常に重要なテーマになりますが、還流方法の検討にあたって税金面での検討がマストとなって参ります。当記事にて日本本社への資金還流方法と税金について解説をさせて頂きます。
以下の様な人におすすめ!
・日本本社へ資金還流を検討されている企業にお勤めの方
・インドネシア進出を検討されている企業にお勤めの方
✔️本記事の信頼性(筆者紹介)
- 田島 寛之 Hiroyuki Tajima
- 日本国公認会計士 Certified Public Accountant (公認会計士協会登録番号:37299)
- 国際税務コンサルティング経験豊富(2018年より2年間タイ、2020年より3年間インドネシア)
- インドネシア税務資格Brevet AB保有
- インドネシア現地コンサル会社複数社の顧問会計士を務める
- Universitas Lampungにて非常勤講師を務める
主な資金還流方法
インドネシアに限らず海外進出される際に検討事項に挙がるテーマであります海外子会社からの資金還流方法について、以下の方法が挙げられます。
- 配当による資金還流
- 貸付金利息による資金還流
- ロイヤリティによる資金還流
- 親子間取引に利益を上乗せすることによる資金還流
資金還流方法検討においては、海外子会社サイド及び日本本社サイド双方の税務リスクを検討する必要があります。
各資金還流方法にかかる税金(インドネシア)
【源泉税】
国を跨いだ資金移動においては、支払側の国で源泉徴収税が課せられるケースが一般的でございます。インドネシアも例に漏れず20%の源泉税が課せられます。ただし、日イ租税条約(日本とインドネシア間での租税に関する条約)を適用することにより以下の通り各源泉税が減税されます。
- 配当支払:持分比率が25%以上の株主への配当の場合(20%→10%)、持分比率が25%未満の場合(20%→15%)
- 利息支払:20%→10%
- ロイヤリティ支払:20%→10%
租税条約を適用するためには所定の手続き(簡単です)を経る必要があります。別記事にて解説をしておりますので是非ご参考ください。
【法人税(損金)】
インドネシア法人サイドの法人税計算上、損金算入が認められるか否かという点で以下のような違いがございます。
- 配当支払:損金に認められない。
- 支払利息:損金に認められる。
- ロイヤリティ支払:損金に認められる。
支払利息及びロイヤリティについては基本的には損金算入が認められますが、料率は独立企業間価格である必要がございます。つまり移転価格の論点となり支払額が通常の取引以上と税務署に判断されてしまうと、損金否認されるケースもございます。
各資金還流方法にかかる税金(日本)
海外子会社からの資金還流については子会社サイドのみではなく、日本サイドについても検討する必要があります。日本サイドでは法人税計算上、各取引について以下の様になります。
- 受取配当金:95%が益金不算入。つまり税負担は「受取配当金×5%×法人税率」。外国税額控除対象外。
- 受取利息:全額益金算入。つまり税負担は「受取利息×法人税率」。外国税額控除対象。
- ロイヤリティ:全額益金算入。つまり税負担は「ロイヤリティ×法人税率」。外国税額控除対象。
上記は日本本社に課税所得が生じているケースを前提としております。繰越欠損金があったり課税所得がマイナスの場合はその期に対しては税負担はゼロとなります。
検討すべき事項
【配当による資金還流】
インドネシア及び日本の税負担を考慮すると、配当による資金還流がグループ全体として最も有利となるケースは多いです。しかし、配当はプラスの利益剰余金から為される必要があり、配当による資金還流はインドネシア子会社で利益が出ていなければ選択肢として取り得ないため注意が必要でございます。(利益剰余金がプラスである必要がある。)
【貸付金利息による資金還流】
インドネシア法人サイドで支払利息を損金算入可能であるためインドネシアにおける税負担は少なくなります。もちろんインドネシア税務署としては好ましくない状況であるため一定の規制がございます(過少資本税制)。
過少資本税制については別記事にて解説しておりますが、簡単に解説しますと負債資本比率(負債 : 資本)が4:1の割合を超えて負債割合が高い場合、当該超過割合分の借入金から生じる利息が損金不算入となります。
【ロイヤリティによる資金還流】
ロイヤリティは税務リスクが高い取引となります。料率の設定について税務指摘事項となるケースが多いです。移転価格の論点となり、インドネシア税務署より料率が高すぎるとして損金否認されるケースが散見されます。一方、「会社名」だったり生産方法など親会社の支援がなされていることが大半でしょうし、こういった親会社からのフォロー、ノウハウ提供が無くゼロといった状況こそ稀かと思います。そのため日本の税務署からの指摘リスクもあり、この点を回避するのも難しいケースが多いです。対応策としては「ロイヤリティーの正当性」をインドネシア税務署に説明、証明することになると考えます。
何に対するロイヤリティー、つまり「使用料」であるかを明確にして契約書を締結する。これによりインドネシア税務署への説得力を持たせることが一つ対策として挙げられます。また金額の妥当性も指摘の対象となりますため、例えば料率をざっくり売上の3%として契約書に織り込むのではなく、より詳細にブランド使用料が1%。技術ノウハウ指導2%等、細かく設定する方がより説得力は増すと考えます。
【親子間取引に利益を上乗せすることによる資金還流】
こちらはまさに移転価格上問題となりますため、税務リスクが非常に高くおすすめはできません。
まとめ
本日は日本本社への資金還流方法の検討にあたって税金面での解説をさせて頂きました。ご不明点等ございましたら「お問合せフォーム」よりお気軽にご連絡頂けますと幸いでございます。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。