移転価格税制はグローバル企業にとって避けては通れない論点となります。また、インドネシアにおいては2022年頃よりこの移転価格が税務調査における指摘のトピックとなっており、新たに施行された国税規則調和法における改正論点からも税務署が移転価格における指摘から税収確保を目論んでいる節が見て取れます。インドネシアにおける移転価格税制の概要を当記事にて解説をさせていただきますので是非ご参考ください。解説不要で制度のみ把握されたい方はこちらにてご確認ください。
以下の様な人におすすめ!
・インドネシアに赴任されて間もない方
・インドネシアにおける移転価格税制を把握しておきたい方
・タイやシンガポールにおけるグループ会社と取引がある企業の方
✔️本記事の信頼性(筆者紹介)
- 田島 寛之 Hiroyuki Tajima
- 日本国公認会計士 Certified Public Accountant (公認会計士協会登録番号:37299)
- 国際税務コンサルティング経験豊富(2018年より2年間タイ、2020年より3年間インドネシア)
- インドネシア税務資格Brevet AB保有
- インドネシア現地コンサル会社複数社の顧問会計士を務める
- Universitas Lampungにて非常勤講師を務める
移転価格文書とは
グループ内取引を恣意的に行って過度な節税を行うことを防止するため、一定の要件を満たす会社に対して移転価格文書作成が求められております。どういうことかとお申しますと、例えばグループ間で取引価格を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となります。
販売価格を高く設定すれば、仕入側の国の利益が売上側の国の利益に移転しますね。
グループ間では簡単にこの価格設定により利益移転が出来てしまうため、移転価格税制はこのような海外の関連者との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するための税制です。
インドネシア移転価格税制における関連者の定義は25%以上の資本関係を言います。50%以上の資本関係とする国が多い中、インドネシアは25%である点ご注意ください。
海外の関連者との取引が通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し課税する制度となります。移転価格文書にはマスターファイル、ローカルファイル、国別報告書があり、作成要件を満たした場合インドネシア法人において作成する必要がございます。
会社としてはグループ間取引が独立企業間価格で行われていることを証明しないといけないんですね。これを証明する文書が移転価格文書となります。
- マスターファイル:グループを構成する各企業情報やサプライチェーン、グループ内の重要な契約その他連結財務諸表などのグループ概要に関する文書
- ローカルファイル:国外関連取引に関する分析、機能やリスク分析および取引の実績値が適正な価格(独立企業間価格)であることを示す数値分析等に関する文書
- 国別報告書:グループの各国別の財務数値や人員数等の活動状況、税額等に関する文書
インドネシアにおける移転価格文書の作成義務要件
移転価格文書には各文書ごとに作成要件が定められております。
【マスターファイル・ローカルファイル】
関連者(グループ会社等)と取引を行っている場合で以下のいずれかに該当する会社に作成義務が発生いたします。
- 売上高総額が500億ルピア超
- 関連者との有形資産取引が200億ルピア超
- 関連者との無形資産(サービス等)取引が50億ルピア超
- インドネシアよりも法人税率が低い国(シンガポール、タイetc)における関連者と取引がある。
マスターファイル、ローカルファイルについて4つ目の条件である「インドネシアよりも法人税率が低い国における関連者と取引がある」という要件は当てはまりやすく注意が必要です。
シンガポール、タイなどは現在法人税率がインドネシアより低いですので、これらの国のグループ会社と取引がある場合、作成義務が発生する可能性がございます。
【国別報告書(CbCR)】
本社がインドネシア国外(日本等)に所在する企業グループの場合、グループの連結売上高が7億5千万ユーロを超える場合にインドネシアで作成が必要(本社所在地国で対応済みの場合は通常不要)
国別報告書(CbCR)の作成がインドネシアで必要になるケースは稀です。一方、似た報告書類名でCbCR Notificationというものがあります。こちらはCbCRの作成の可否を報告する書類であり、全ての会社でこちらのNotificationの提出は必要となりますのでご注意ください。
インドネシア特有の移転価格に関する指摘とペナルティ
税務調査サポートを対応させていただいております立場から申しますと、コロナ前後において税務調査内容に変化が生じていると感じます。コロナ禍で企業の業績悪化が著しい中、課税所得が当然減少し税収減も深刻化しております。その影響と推測されるのですが近頃税務調査が厳しくなっている様に見受けられます。特に移転価格に関し非常に厳しい指摘を受ける様になっており、これまでにない新たな指摘として下記の2点が挙げられます。
- 移転価格の指摘を配当に関連付けて源泉税(PPh26 :20%)の納税漏れとして追徴
- 移転価格文書の作成過程説明要求
1点目ですが、移転価格における指摘において、利益率を税務署が考える妥当な水準に調整され売上原価の損金否認をされるというケースはよくある指摘のひとつになります。ただ近頃見受けられる傾向として、この利益率の調整のために減少する売上原価分を本社への配当とみなし、配当金に係る源泉税(20%)の申告納付漏れとして指摘追徴をしてくる事例が発生しております。多くの企業において課税所得が減少していることもあり売上原価の損金否認から課税所得を増加させるという通常の調整では課税所得がマイナスのままで追徴が上手くできません。そこでなんとか税収確保のために別の調整方法、つまり配当とみなし源泉税20%を追徴するといった方法に動いたというのが税務署の思惑なのではないかと推測しております。
理解に苦しむ調整ではございますが、この様な調整が法令(2021年11月施行国税規則調和法)にて新たに規定されてしまっておりまた実際に指摘が行われる事例が発生してきております。
また、2点目ですが税務調査においてマスターファイル、ローカルファイルなどの移転価格文書の提示を求められることはこれまでも行われておりました。ただ2022年頃より移転価格文書の作成過程を直接説明し、かつデータベースからの比較会社の抽出過程についても税務署に出向いて説明することを求めてくる事例が発生しております。
この様な背景より移転価格税制は今ホットなトピックとなっておりますため、これまで以上に文書化の精度を上げることが求められると考えております。
まとめ
本日は、移転価格税制について解説をさせて頂きました。税務署としては比較的多額に指摘しやすい論点であり、現在トピックとなっておりますため是非移転価格文書につきまして今一度見直されることをお勧めさせて頂きます。ご不明点等ございましたらお気軽に「お問い合わせフォーム」よりご連絡頂けますと幸いです。
最後までお読み頂きまして誠にありがとうございました。